研究概要 |
地球内部の構造が急変する場所(不連続面や層境界や薄い構造など)やその物性値を正確に推定するには,走時ではなく波形を用いる波形トモグラフィーが有効と考えられている。しかし,波形トモグラフィーを行うためには,3次元地震波動場の数値シミュレーションを非常に多数行わなければならず,従来の計算法を用いる限り実記録の周波数帯まで扱うのは困難であった。本研究の目的は,このような波形計算の困難を克服する超高速地震波動計算法を開発することである。本研究期間中に以下のことを行った。 1 Quasi-spherical Approachを新たに考案し,軸対称震源用(P-SV用)の差分スキーム及び計算コードを開発した。そして,マントルの660km不連続面を突き抜けているスラブモデルと,この不連続面付近で滞留しいているスタグナントスラブモデルについてP波震源を用いたシミュレーションを実施し,2つのスラブモデルの違いの効果が顕著に現れるフェイズを同定した。 2 Quasi-spherical Approachの開発で得られた手法を軸対称(全球)モデリングに適用した。これまで差分法等による軸対称モデリングでは軸対称震源しか扱えないという問題があったが,本研究ではこれを克服した。軸対称モデリングはQuasi-spherical Approachよりもさらに計算効率が良いので,媒質を軸対称で近似できる問題には軸対称モデリングが有効である。 3 実際の地震波形記録をモデリングする際,非弾性減衰(Qの効果)を評価しなくてはならない。本研究では,Qの効果を効率的に評価するために,鉛直方向にのみ速度及びQが変化する媒質における平面波入射問題を超効率的に解く手法を開発した。減衰を導入する方法としてメモリー変数法を適用し,計算スキームには,時間領域差分法を用いている。Qの周波数依存性も考慮できる。
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