研究概要 |
本研究では帯磁率異方性(AMS)を用いた付加体構成岩石中の歪解析の手法の有用性を調べることを目的として,高知県中西部地域に分布する白亜系(北帯)および東南部地域に分布する古第三系(南帯)をフィールドとした研究を行った.室戸半島行当岬に分布する室戸半島層群室戸層では,明瞭な変形構造としてスレート劈開が発達している.この地域に分布する泥岩試料の示すAMS-fabricは,AMS楕円の最小軸方位が,スレート劈開面と層理面の交角が大きくなるほど,層理面の極方向から劈開面の極方向に回転する傾向を示し,劈開に垂直な方向からの圧縮変形に影響を受けていることが予想される.劈開面と層理面の関係を得た地点毎にAMS楕円体を歪指示物として利用して歪解析を試みた結果,歪の形態はフリン図上でほとんどの場合がoblate領域,すなわち一軸短縮の領域にプロットされ,この結果は,各地のスレートについて報告されている歪解析の結果と矛盾しない. 砂岩を粉砕し粒度調整を行った試料について,一軸の短縮実験を行って,内部組織の変化とAMS変化の関係を調べた.その結果,AMS異方度の大きさは,試料内部の粒子配列の度合いが圧縮変形とともに増大することと関連していることが示された.即ち,一軸圧縮実験においては,歪がAMS異方度と相関する. 本研究でのAMS楕円体を用いた歪解析では,歪楕円体の形状は求まったがその大きさは求まっていない.歪楕円体の大きさを求めるためには,ここで行った模擬物質を用いた実験と同様のことを,実際の岩石を用いて行い,結果のスケール付けをする必要がある.Owens(1974)にあるように歪とAMSを結びつける場合その変形モードが重要である.また,帯磁率異方性は岩石内部に含まれる磁性鉱物粒子の種類,形状,粒子サイズ,配列形態を反映するので変形試験で求めたスケール付けの結果を他の地域に単純に適用する事は出来ない.また岩石の環境変化に伴う変質により,磁性鉱物が二次的に生成,消滅している場合などもあるので,得られたAMS-fabricが何を反映しているものなのかは注意を要する.以上のようにAMSと歪を結びつける事は複雑かつ難解であるが更なる詳細な研究が行われば同一地域内の歪分布は求められる可能性がある.
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