研究概要 |
西南日本の白亜紀汽水域群集の古生態を理解するため,徳島県の勝浦地域,熊本県八代南方の海浦地域,および和歌山県湯浅地域の下部白亜系でフィールドワークを実施した,特に,勝浦地域の辰ヶ谷セクションでは,従来にない精度での調査を行い,層序,堆積相,化石群の組成(サンプル数33)と産状を分析した. いずれの地域においても,チャネルを充填する数メートルの粗粒砂岩層に始まり,しばしば石炭層を挟む細粒堆積物で終わる堆積サイクル(サイクロセム)が認められた.このサイクル形成に伴う環境変化を復元することによって汽水性貝類群集の生息場を復元することができる,勝浦地域辰ヶ谷では,チャネルを充填した粗粒砂岩上位の細粒堆積物中に,薄い炭層の繰り返しが認められ,小規模なサイクルが認められた.層厚2.5mのある小サイクルでは,炭層の上位から,Costocyrena群集,Isodomella-Pharella群集,Crassostrea群集,Ostrea-Pyrgurifera群集,そして再び炭層と変化する.これは1回の海進と海退を表しており,Crassostreaの密集層が最大海氾濫面に相当し,堆積物供給が減少するとともに,塩分が最も濃くなった時期の堆積物と解釈できるまた,このサイクルの上下には,化石をあまり含まない潮汐堆積物と考えられる砂岩シルト岩の薄互層があり,化石多産層準は,潮汐など堆積作用の影響の少ない場に限られることが分かる.このように,汽水域においても,海水域と同様,底生動物の生息場の物理的安定性が二枚貝にとって必要条件であることが明らかとなった.本研究において,Isodomella, Costocyrena, Tetoria, Pulsidis等の産状を発見できたことは,群集の正確な認定の基礎となる大きな成果である.従来報告されてきた汽水性貝類群集には異地性の疑いが少なからずあり,今後,本研究の成果を基にして,再検討する必要がある.
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