研究概要 |
本研究では,1)ウクライナ,ドネツ炭田東部のKalinovoセクションと,2)中国貴州省紫云県宗地セクションでのMoscovian/Kasimovian境界の高精度有孔虫生層序対比を主に検討した. 1)Kalinovoセクションでは,Moscovian/Kasimovian境界層準に近いN2,N3,N_3^1,N_3^2,N_3^3,N_5^1,O_1,O_1^1,O_1^2,O2,O3,O4の12石灰岩層においてフズリナ類を検討した. N2のフズリナ群集は後期Moscovian(Myachkovian前期)の典型的な属であるFusulinaやTaitzehoellaを含む.N_3はQuasifusulinoidesや原始的なProtriticitesを産することから,その年代は最後期Moscovian(Myachkovian後期)と考えられる.その上位のN_3^3からはObsoletesや,最外旋回殻壁に粗いperforationが発達した進化型のProtriticitesが産する.このことから,N_3^3は既に伝統的な見地からみたときの前期Kasimovian(Krevyakinian)である可能性が高い.O_1ではObsoletesとQuasifusulinoidesが多産し,原始的なMontiparusもみられる.したがって,この石灰岩は中期Kasimovian(恐らくKhamovnikian前期)に相当すると考えられる.O_2からは典型的なMoniparus(M.Montiparus, M. umbonoplicatus)が多産し,原始的なTriticitesも認められる.そのため,O_2は中期Kasimovianの後半(Khamovnikian後期)に対比可能である.O_3はQuasifusulinaが多産することから,すでに後期Kasimovian(Dorogomilovian)と考えられる. このように,Kalinovoセクションにおける伝統的な見地でのMoscovian/Kasimovian境界は,N_3とN_3^3の間に置くことができる.ドネツ炭田地域では,Kasimovian基底を特徴づける可能性が示唆されているコノドントldiognathodus sagittalisの初出層準は,O_1であることが知られている.したがって,コノドントによるKasimovian基底は,伝統的な見地でのKasimovian基底よりも数堆積サイクル上位の層準に置かれることになる. 2)宗地セクションの上部Moscovian-Kasimovian層準においてフズリナ生層序を検討した結果,下位よりFusulinella-Fusulina帯,Protriticites sp. A帯,Protriticites sp. B帯,Montiparus帯,Triticites 帯の5フズリナ化石帯が設定できた.このうちProtriticites sp. A帯からは,旋回殻壁に細孔(fine perforation)のみが発達する原始的なProtriticitesが産するのに対し,その上位のProtriticites sp. B帯では原始的なケリオテーカ構造に比較可能な,粗いperforationが外部旋回殻壁に現れる進化型のProtriticitesが産出し始める.これらのデータから,宗地セクションにおけるMoscovian/Kasimovian境界は,概ねProtriticites.sp. A帯とProtriticites sp. B帯の間に置くことができる.
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