研究概要 |
古海洋環境を復元するために化石群集の持っている海洋情報をどのようにして引き出すかが焦点となる.そこで,円石藻(石灰質ナンノ化石)に着目して,浅海層,中層,深海層から採取されたセジメントトラップ試料を用いて,各深度において季節変化に伴う円石藻群集の変化を明らかにし,海洋における沈降過程での群集の変移を明確にする.さらに,化石群集の持つ情報について,セジメントトラップ地点の海底表層堆積物中の遺骸群集を解析し,群集の季節変化や経年変化,鉛直輸送過程や溶解過程との関係を明らかにすることを目的とした. 中緯度域の北西太平洋での深度1371mと4787mに設置したセジメントとラップ実験結果から以下のことが明らかとなった.この海域で優勢種となるEmiliania huxleyi,Gephyrocapsa oceanica,Florisphaera profundaのタクサは,セジメントトラップの年間の解析から,平均化された群集となっていることがわかった.したがって,この海域の堆積物中のこれらのタクサによる環境解析では,その海域の表層水の年平均の環境を反映しているとみるのが妥当であることが判明した.一方,Coccolithus pelagicusは,トラップでは,4月から5月に増加していることが認められているため,堆積物中の同種は,4月から6月にかけての生物生産量の高い時期を表していることが判明した. 低緯度域の赤道太平洋における円石藻の沈降過程の季節変動と海底堆積物との関係については,同海域でのセジメントとラップ実験から,栄養塩の供給時にOolithotus fragilisの増加が確認されたので,この種に着目して,過去25万年前以降の環境変遷について詳細な解析を行った.同種の産出頻度の増加は,酸素同位対ステージ1,3,5と5/6境界に認められた.この種のトラップ実験による増加時期は冬季に限定されていることから,コアにみられたこの種の増加は,より冬季の影響を反映していた結果と推測された. このように,季節変化に関する円石藻群集の特徴を沈降過程も考慮した結果に基づくと,海域によってプロキシー種の特性も異なることが明らかとなり,古海洋環境変化の詳細な解析を可能にした.
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