研究概要 |
課題研究期間内に行われた研究内容について,以下の3つにまとめられる. 1.拡張ピラシロキノン誘導体の合成と物性 ピラシロキノンの初めての拡張キノン誘導体を合成し,その特徴を明らかにした.X線結晶構造解析から求めた分子構造ならびにCV法より求めた還元電位からピラシレン部の反芳香族性の寄与が認められた. 2.ジチエノ縮環ビス(スピロジエノン)骨格を有する新規酸化還元系分子の合成と物性 チオインジゴ拡張キノン類の合成研究の過程で,ビス(ベンゾ[b]チオフェン)縮環ジスピロ[5.4.5.0]ヘキサデカ-1,4,7,9,12,15-ヘキサエン-3,14-ジオンという新しい骨格を持つ分子を得た.この化合物は二電子還元により中央六員環が開裂し,ビスフェノキシドを与えた.また,光照射により得られるESRシグナル強度は光照射のオン-オフにかなり鋭敏に反応することがわかった.さらにベンゾ[b]チオフェン縮環体からベンゼン環を取り去ったジチエノ縮環体から,新規なクォーターキノン誘導体を合成した.金属光沢のある暗緑色結晶で、675nmに強い吸収を持ち、吸収端は900nmに達する.CV測定より,温度によって異なる還元過程をとることがわかった. 3.ジチエノ縮環ο-ターフェノキノン誘導体の合成研究 ベンゾ[2,1-b:3,4-b']ジチオフェン骨格とベンゾ[1,2-b:4,3-b']ジチオフェン骨格を持つ誘導体について合成した.それぞれ前駆体となるビスフェノール体を分子内McMurry反応を鍵反応として合成し,フェリシアン化カリウムによる酸化反応を検討したところ,共にキノン体ではなくジラジカル体が生成した.また,反応時間を長くすると別の化学種へと変換されることもわかった.ベンゾ縮環体との挙動の違いは,ベンゼン環とチオフェン環の立体障害の差だけでなく,芳香族性の違いも反映していると考えられる.
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