研究概要 |
超伝導,磁性,半導体,触媒能など現代文明を支えるハイテク化合物の多くに酸化物が用いられている。最高の性質を求めると酸化物にたどり着き,その分子レベルでの理解が重要となる。しかし,酸化物を分子として合成することは意外にも難しく,前人未踏の世界が広がっている。本研究において,酸化物イオンが金属イオンに配位した完全無機錯体の化学を発見し,錯体化学を無機物質にまで拡張できることを証明した。ルイス酸であるさまざまな金属イオンを,バナジウムオキソ酸からポリ酸といわれるオリゴマー酸化物分子を形成し,ヘテロ原子としての遷移金属を取り込んだ酸化物分子を合成した。(Bu_4N)[VO_3]溶液にさまざまな金属塩を加えると,そのルイス酸性によりバナジン酸の縮合反応が進行し,クラウンエーテルと似た環状酸化物[VO_3]_n^<n->イオンが生成する。Co(II),Ni(II),Cu(II),Zn(II)イオンを無水条件で反応させることで,さまざまな環員数nの大環状無機錯体[M_1(VO_3)_n]^<m-> を合成した。これは,環状ポリオキソバナデートが,クラウンエーテルのように金属に配位した無機配位子による配位化学である。また,環状無機錯体から,金属を取り除くとディスク状の酸化物骨格が残され,テンプレート存在下に縮合反応を行わせると,環状酸化物を入り口にしたお椀型のクラスターから球状のクラスターへと骨格変換される。硝酸イオンをテンプレートに用いると,驚くべきことにDNA二重らせんに類似した,バナジウムV8リボンの二重鎖からなる無機不斉分子への発見につながった。 戦略的な基礎化合物である酸化物にヘテロ原子として種々の遷移元素を取り込んだ「分子」を,錯体合成できることを立証し,初めて無機二重らせん分子を発見した。本研究により,無機配位子を実際に有効に機能させ興味深い酸化物分子を多数開拓できたので,今後は機能性物質への展開が望まれる。
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