研究概要 |
ガンマ線摂動角相関(PAC)法は、物質中のプローブ核に加えられる外場の情報を得ることで,その核の属する原子付近の電子状態や物質の構造を探ることができる。この手法は適応される測定試料の状態に制限されることなく液体状態でも超微細場測定が可能である。この特長を生かして近年構造と機能が注目されているタンパク質への適用を考えた。本研究では,溶液中の状態についての情報を得るために生体分子の活性中心での超微細場測定をPAC法で試みた。マビシアニン野生型と変異型(Thrl5Ala-Mav)を測定試料に選び,このマビシアニン中の銅の位置にPACプローブ親核である^<117>Cd(半減期2.5h)を入れ,水溶液中のpHに対するマビシアニンの銅活性部位における超微細場測定を行った。その結果pH6.0-8.0の範囲では、野生型マビシアニンについて活性部位の電場勾配V_<zz>は1.48〜2.08×10^<22>V・m^<-2>であるのに対し、変異型では0.43〜1.49×10^<22>V・m^<-2>という値になった。変異型の値はいずれも対応するpHの野生型に比較して低い値になった。また,pH6と7.5の間での電場勾配の急激な変化は同様に見られた。電場勾配の比較より,野生型と変異型の間で何らかの構造の変化があったと考えられる。変異型は野生型の15位トレオニンをアラニンに置換したもので酸化還元電位の変動が確認されている。さらに詳しくその変化について議論を進めるために,活性部位周りの元素と似ている様々な配位子から作ったオキシンなど5種類の錯体に関する電場勾配を求める同様の実験を行った。また,PACプローブ核の依存性をみるために^<117>Cd以外にプローブ親核として^<111m>Cd,^<111>Inの測定を行った。これらのデータから,同じ化合物でもプローブ核を変えた場合では電場勾配が違っていることがわかった。これはプローブ核の元素自体か壊変過程における後遺効果の違いであると考えられる。また,測定した錯体の電場勾配値はマビシアニンの電場勾配値に比べるとほとんどは低いものであったが、キノリン-8-カルボン酸錯体はマビシアニンに近い値を与えることがわかった。これらのデータはタンパク質中の金属に対する配位の特異性を示唆している一方で、キノリン-8-カルボン酸錯体の配位構造との類似が示唆される。タンパク質の配位構造を考えるためにもこれらの配位子についてさらに詳しい検討をする必要があると考えられる
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