研究概要 |
油水界面電子移動は,生体膜における電子移動反応や,ビタミンCやビタミンEの共役的抗酸化作用などのメカニズムを解明する上で,最も単純なモデル系として重要である。本研究では,走査型電気化学顕微鏡(Scanning Electro Chemical Microscopy : SECM)を新たに導入し,生体関連分子の油水界面電子移動の反応機構の解明を行った 平成16年度においては,ニトロベンゼン/水界面およびベンゼン/水界面におけるビタミンC(アスコルビン酸)またはクロロゲン酸と亜鉛テトラフェニルボルフィリン錯体のラジカルカチオンとの間の電子移動について速度論的研究を行った。測定された電子移動の見かけの速度定数は天然抗酸化剤の濃度の平方根に比例した。この依存性は,1分子の抗酸化剤と2分子のラジカルとの界面衝突による"電子移動機構"でも,また,ラジカルが水相へ分配した後に水相中で電子移動する"イオン移動機構"のいずれでも説明することはできなかった。しかし,抗酸化剤が油相へ分配した後に油相中で電子移動するという新しいタイプの反応機構によって,速度定数の濃度依存性をうまく説明することができた。 平成17年度においては,"電子移動機構"(真の電子移動反応)に焦点を当て,油水界面でのデカメチルフェロセンとヘキサシアノ鉄酸との間の電子移動速度をSECMによって測定した。測定された速度定数のギブズ自由エネルギー依存性は,マーカスが提出した理論から予想される放物線と異なって,頭打ちの依存性を示した。この事から,我々が先に提出した二分子反応における拡散の寄与を考慮した理論の妥当性が確認された。 以上の研究により,油水界面電子移動の反応機構の研究においてSECMが有用であることが分った。
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