研究概要 |
開環メタセシス重合(以下ROMP)の報告例には、環構造に大きな歪みを含むモノマーや中員環化合物に限られており、比較的安定とされている5あるいは6員環のROMPではオリゴマーしか得られていない。本研究ではシクロヘキセン環でも歪みを持たせることで、ROMPが優先的に進行すると考え、シクロヘキセン環に平面構造の5員環イミドが隣接した(1R,2R)-N-ベンジルテトラヒドロフタルイミド(BnTPI)のROMPを行った。(1R,2R)-BnTPIの開環メタセシス重合性についてトルエン中、110℃、1st Grubbs触媒存在下で検討を行った。50〜82%の収率でpoly (trans-BnTPI)が得られ、そのポリマーのGPC測定結果からポリスチレン換算で数平均分子量が2.3万でおよそ90量体であることがわかった。またポリマーの比旋光度[α]_<435>は+20.2°〜+52.0°を示し、モノマーの負の旋光性([α]_<435>=-61.5°)から正の旋光性へと反転した。円二色性(CD)スペクトルではモノマーとポリマーでは大きく変化していたことから、ポリマーの旋光性の変化は主鎖のキラリティーと高次構造に起因したものと結論づけた。 さらに重合性の向上と種々の官能基を窒素上に導入するためにIV-4-置換ベンジルテトラヒドロフタルイミド(RBnTPI-R')のROMPを行った。4位にメチル基を導入したMBnTPI-H及びニトロ基を導入したNBnTPI-Hの重合では無置換のHBnTPI-Hより収率・数平均分子量(M_n)が低下したが,bulk条件下で行うことにより重合性は向上した。イミド環との環縮合部にメチル基を導入したMBnTPI-Meは、アキシアル位に2つのメチル基が配置するためMBnTPI-Hよりシクロヘキセン環の歪みが増大し、重合性の向上が期待された。しかし、得られたポリマーのM_nは増加したが収率が低下した。また環縮合部の立体化学がtrans:cis=2:1の4位にカルボキシル基を導入したCBnTPI-Hは、trans体のみが重合した。さらにイミド環との環縮合部にメチル基を導入したCBnTPI-Meの重合では、最も高分子量のポリマーを与えた(M_n=25,800)。以上の結果から、様々な置換基を導入したRBnTPI-R'の重合性はシクロヘキセン環のコンフォメーションや置換基に大きく影響を受けることが明らかとなった。
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