研究概要 |
本研究では,次の二点を目的としていました。 A 錯イオンの対称性を制御することによって結晶中の錯イオンの並び方を制御すること。 B 結晶の対称性によって現れる電気光学効果について調べること。 以下に主な成果の概要を記します。 1 電気光学効果の精密測定 本研究でまず最初に取り組んだのが,電気光学効果の精度の高い測定手法の開発でした。粉末試料を用いた測定では光の散乱等のために電気光学効果を精度良く評価できないため,単結晶試料を用いて測定することを考えました。透過光を観測する方法と反射光を観測する方法を試み,結果的に反射光を観測する方法で電気光学効果を精度良く測定できることがわかりました。 2 異なる結晶系の作り分け 本研究を始める前に,キラルなニッケル錯体を用いて極性体を作ることに成功していました。この化合物は,対称点群C2に属する錯カチオンと対イオンから成り,結晶点群C2に属する極性結晶でした(図1)。しかし今回の研究では,同じ化合物が結晶点群D2に属する無極性結晶にもなることを発見し,異なる二つの結晶系を作り分けることに成功しました。 3 新しい化合物の探索 本研究では,極性体の開発を目指して新たな化合物をいくつか合成しました。しかし電気光学効果の測定に必要な数ミリメートル程度の単結晶ができていないために電気光学効果が調べられていないものもあります。例として,図2に示すキラルな二核化配位子を用いた亜鉛錯体は,単結晶がまだ得られていないために生物無機化学的なアミノペプチダーゼのモデル研究として発表しています。 4 四次の電気光学効果の観測 本研究ではいくつかの化合物にっいて電気光学効果を測定しましたが,特筆すべきは,前述の結晶点群D_2の無極性結晶が四次の電気光学効果(屈折率変化が外部電場の四乗に比例する効果)を示したことです。四次の電気光学効果はほとんど報告例がなく,発現機構の解明に興味が持たれます。
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