研究概要 |
本研究においてポリイミドの要求特性を達成するために重要なキーモノマーである、新規な脂環式1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(DMCBDA)の合成条件を検討し、シトラコン酸無水物の光二量化より高純度体を合成した。これと2,2'-bis(trifluoromethyl)benzidine(TFMB)を等モル重付加反応・キャスト製膜・熱イミド化工程を経由することで2,60以下の低誘電率、30ppm/K以下の低線熱膨張係数、300℃以上のガラス転移温度を同時に満足する新規な透明ポリイミドを開発した。更にジアミン成分としてTFMBの代わりにトランス-1,4-シクロヘキサンジアミンを使用して重合を行ったところ、重合初期に塩形成が見られたものの、徐々に溶解していき、重合することに成功し、これを熱イミド化して全脂環式ポリイミドを得た。このポリイミドも低誘電率と低熱膨張係数を同時に達成した。しかしこれらのポリイミドは有機溶媒に殆ど溶解性を示さなかった。そこでこのポリイミド系の低誘電率および低線熱膨張特性を損なうことなく溶液加工性および膜靭性を同時に改善するため、新規な屈曲性脂環式テトラカルボン酸二無水物および屈曲性芳香族ジアミンを共重合成分として少量用いて4元共重合体を合成した。もくろみどおり得られた脂環式ポリイミドはDMAc、NMP、DMSO、γ-ブチロラクトンおよびいくつかのケトン系溶媒に高い溶解性を示した。具体的な製造方法としては、ポリイミド前駆体の重合溶液に化学イミド化剤を投入後、室温で撹搾することでイミド化を完結させて均一なポリイミド溶液とし、これをキャスト製膜するという方法を確立した。得られたポリイミドフィルムは無色透明でしかも2.65以下の低誘電率、300℃以上のガラス転移温度に加え、25ppm/K以下の低線熱膨張係数も同時に達成した。従来の低熱膨張性ポリイミド系ではポリイミド前駆体をイミド化する過程で自発的に面内配向が誘発されることが知られていたが、本系のようにイミド化反応を経由することなく、単にキャスト製膜するだけで高度な面内配向が誘起され、その結果として低線熱膨張係数が発現されるという現象はこれまで報告されていない。このように本研究は上記のような優れた膜特性および溶液加工性を兼ね備えた従来にない新規な耐熱絶縁材料を提供するものであり、特に集積回路の層間絶縁膜等への適用が期待される。
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