研究概要 |
予備実験により,雰囲気温度を室温から零下170度まで下げ,しばらくこの温度に保ったあと,室温まで昇温する温度サイクルに対し,水で飽和した岩体試験片(立方体状の砂岩)は複雑な変形挙動を示すことが分かっていた. 本研究の実験では,この様な変形挙動を,いくつかの冷却速度(昇温速度)およびいくつかの岩体試験片の大きさに対し,系統的に,実験を行った.その他,凍結前後における強度試験等も行った. 予備試験および本試験によって得られた飽和岩体試験片の複雑な変形挙動(雰囲気温度が氷点よりもある程度低くなると,試験片は急激な大きな膨張を示し,その後,雰囲気温度の低下に伴って緩やかな収縮を示す.零下170度に達すると雰囲気温度は変わらなくとも収縮が続く.昇温課程にはいると,岩体試験片は徐々に膨張し,室温に近づくと急激な大きな収縮を示す.少し,残留ひずみが残っている.)のメカニズムを明らかにするため,多くの仮定の下に,上記のような温度サイクルに対し変形のシミュレーションを行った.主要な仮定は,(1)温度低下に伴う熱収縮,(2)空隙水の氷結に伴う膨張,(3)氷結に伴う膨張は,マイクロメカニックスにより記述できること,(4)岩体試験片の内部での氷結の進行は,明白な氷結フロントの移動として記述できることである. 上記の仮定に基づくシミュレーションは,実験の変形挙動をおおむね良く再現しており,複雑な変形の支配的な因子は上記の(1)(2)であることを示している.また,(3)の仮定も上手くいっているようである.(4)に関連して,シミュレーション結果は急激な膨張から緩やかな収縮への遷移ははっきりとした点で起こっているが,実験ではかなりなだらかな遷移を示していることから,氷結の過程は,水の氷結におけるデンドライトのような混合領域を伴って進行することが推測される. その他の多くの仮定は,シミュレーションの結果と実験結果の詳細な対比を行うことによって,変形過程のメカニズムの究明あるいはそれに与える影響因子の抽出に役立つであろう.この点に関しては,今後の課題として残った.
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