研究概要 |
蛋白質やDNAなどの生体分子の形状を観察し,さらに剛性等の力学特性を計測できる原子間力超音波顕微鏡技術の開発を目的とする本研究の成果は以下のとおりである。 1.遺伝子診断チップ上のDNA分子の定着性は,診断チップの信頼性の観点から極めて重要である。診断チップでは通常樹脂等の表面粗さを持つ基板が利用されるため,原子間力顕微鏡では基板上のDNA分子を直接観察することはできない。本研究では,シリコン探針の押付けによりDNA分子が探針に比較的強く付着することを見出した。また,基板からの引剥しの際の引力に注目すれば,基板上のDNA分子の存在が認知できること,また付着力が計測できることを明らかにした。さらに,エネルギー解放率の概念を導入することにより,基板上DNA分子の単位長さ当りの付着エネルギーが評価できること,および平均結合周期の評価を基に基板との結合種が同定できることを明らかにした。 2.ポリカーボネイド製のDNAチップに対して,シリコン探針により付着力マッピングを行った結果,表面粗さに埋もれていたDNA分子の二次元的な形態を,大気中にて観察することができた. 3.金細線より作製した棒状集中質量を用いた集中質量型カンチレバーを使用して,シアフォース制御の原子間力超音波顕微観察法を提案した.集中質量の慣性により,2次モードでは集中質量の並進運動が抑えられ,集中質量重心まわりの回転運動が顕著になる.これにより探針は試料表面を擦るような周期運動するため,シアフォース制御が可能になる.これは,十分な回転慣性によって水中においても加振が容易となる.また,シアフォース制御はダメージが少ないため軟らかい生体の観察に適している.
|