研究概要 |
ヒト正常関節軟骨(以下,正常軟骨)およびヒト変形性関節症軟骨(以下,OA軟骨)に押込み試験を行い,押し込み試験後の経時的な近赤外線吸光度(以下,吸光度)の回復を測定した. 吸光度は試料に照射した近赤外線の減水率であり,この吸光度を含水率の指標とした.試料はヒト正常大腿骨頭関節軟骨およびヒトOA膝関節軟骨を使用した.各試料をOuterbridge肉眼分類によってGrade 1〜4に分類した後,直径8mmの骨軟骨柱とし,それぞれに対して約200Nの荷重で押込み試験を行った.その後,試料の周辺から水を再吸収させ,負荷前および押込み荷重除荷直後からの吸光度の経時的変化を近赤外線水分計で測定した.さらに,各試料の変性の程度と組織学的評価指標(Mankinスコア)を用いてランク付けし,吸光度の経時的変化とMankinスコアとの対応関係を調べた. 正常軟骨(Grade 1)の吸光度は押込み荷重除荷後もしばらく吸光度が減少し,その後増加して23分でほぼ一定になった.OA軟骨では変性が進むにつれ吸光度が一定になるまでの時間は短くなり,最も変性の進んだ試料(Grade 4)では,押込み荷重除荷後2分で吸光度が一定となった.また,吸光度が減少から増加に転ずるまでの時間とMankinスコアの値に負の相関が認められた. 正常軟骨の吸光度は比較的長時間かけて回復したのに対し,OA軟骨では,変性の進行とともに吸光度が迅速に回復した.変形性関節症における軟骨変性では,軟骨基質の構造は破壊され透水率が増大する.そのため,変性の進んだ軟骨では押込み荷重除荷後の水の回復が迅速になったと考えられる.また,正常に近い軟骨組織では,押込み試験によって水分が一旦組織外に流出し,その後組織のひずみのみが先に回復するものの水分の供給が追いつかないと考えられる.その結果,見かけの含水量が低下するために吸光度の減少が起こる.
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