研究概要 |
非結晶性高分子材料のせん断試験において,納入(AR : As-Recieved)材と焼き入れ(Q : Quenched)材との降伏モードが大いに異なることを発見した.AR材では,すべり線の発生,せん断帯の発生・成長によって降伏が起きる強せん断帯型であるのに対し,Q材では,すべり線やせん断帯の発生は認められず,薄ぼんやりした塑性域の発生によって降伏が始まる弱せん断帯型となる.さらに応力-ひずみ曲線においても,強せん断帯型では降伏後の加工軟化は急激であるのに比べ,弱せん断帯型の軟化程度は小さくなる.このような降伏モードの違いを調べることは,高分子材料の降伏機構の解明につながると考え,本実験を企画し,以下のことを示した. 非結晶性高分子材料として,PC,PVCおよびPETを用いて,ARおよびQ材のa.せん断試験における降伏過程の観察,b.ひずみ速度,温度の影響,c.Q処理によって生じる残留応力の影響,d.有機溶剤の拡散,e.動的粘弾性測定,f.熱分析,g.比重測定などの実験を行った. その結果1.降伏モードの違いは残留応力が原因ではない,2.d,e,gの実験より,Q処理によって生じる材料内の空隙の増加が,損失正接の増加すなわち粘性係数の減少,分子鎖の動き易さを可能とし,降伏モードの違いをもたらす可能性が強いことを示した. さらにき裂先端にできる塑性域を進むき裂成長についても実験した.その結果1.き裂先端には,降伏モードの違う塑性域が発生するが,塑性域長さはDugdale式に従う,2.き裂成長速度vs応力拡大係数範囲関係は,ARおよびQ材であまり違わない,3.破面に現れるストライエーション形状は,AR材とQ材とでは大いに異なることを示した.
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