研究概要 |
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は軽量かつ高強度であるため航空機などに用いられるが,プリプレグシートを重ねて成形した積層板は衝撃により層間はく離が発生すると圧縮強度が著しく低下する.本研究では層間はく離の非破壊評価を目的として電磁超音波センサにより板波音速を測定した.板波は音速が周波数と板厚の積に依存する分散性を示すことから,板厚減少を引き起こす層間はく離を板波音速変化として検出することを試みた.電磁超音波センサはコイルと磁石とから構成され,材料中に発生した渦電流と静磁場の相互作用によるローレンツ力により超音波を発生させる.CFRPはある程度の導電性を有しており,さらに渦電流を発生させやすいと期待される平織りクロスプリプレグを用いた積層板を用いることで本来金属用である電磁超音波センサの適用を可能にした. 電磁超音波センサは従来の圧電センサのように測定対象の表面処理や音響結合剤を必要とせずセンサの走査が容易である反面,変換効率が低い.まず,静磁場を反転させた受信波形の差をとると送信信号の漏れと重畳された状態から板波波形を抽出できること,積層板裏面の受信センサ対向位置に軟鋼ブロックを置くことにより信号強度を向上できることを確認した.さらに電磁石により静磁場を与えて信号増幅を試みたが,十分な静磁場強度は得られなかった. 人工はく離を段階的に導入した積層板において板波の群速度測定を行った結果,各周波数成分の群速度は健全部よりはく離部で大きいことが確認された.伝ぱ距離に対する伝ぱ時間の傾きがはく離部で変化することを利用したはく離評価について検討したが,はく離導入前の群速度とはく離導入後の健全部の群速度が一致しないため十分な精度が得られなかった.ただし,健全であることが既知である領域が存在する場合には,その領域での伝ぱ距離-伝ぱ時間関係を基準としてはく離領域の評価が可能であるといえる.
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