研究概要 |
本課題での研究では,塑性の場の理論という新しい独自の視点自身を提案,かつ同視点に基づいてマルチスケール多結晶塑性問題を捉え直し,これまでほとんど明らかにされてこなかった,あるいは指摘すらされてこなかった複雑機構の発見および解明を,一歩踏み込んだレベルで試みた.多数の新規かつ重要な知見を得たが,主なものを記す.まず,多数の結晶粒の集合体としての多結晶材には,結晶粒の集団挙動としての特徴が大きく3つあることを明らかにした.すなわち(a)粒数増加に伴い応カ-ひずみ場のゆらぎが顕著になるとともに,それぞれ"応力支持構造"および"流動伝達構造"を形成する,(b)(a)の両構造を介して非局所性が発現する(遠隔効果),および(c)応力場とひずみ場のゆらぎは相補的な関係にあり,局所的なエネルギのやり取り(とくにひずみエネルギの局所的塑性変形への散逸)が不均質場の発展を駆動する(場のゆらぎの"双対性").つぎに,こうした不均質場を"記述"するための数理手法として微分幾何学的場の理論に基づく不適合度テンソルの適用法を提案し,結晶塑性構成モデルに組み込むことで,結晶粒内における不均質場の発展も含めて簡易かつ効果的に取り扱えることを示した.さらに同手法に基づき相互作用場の概念を提案し,複数の階層における不均質場が相互作用しながら発展する過程を表現する方法論を確立した.これらの手法をいくつかの実践的課題,すなわち自動車用高強度鋼板のバウジンガ挙動およびCu添茄鋼の疲労特性に対し一部適用し,その有効性について検討を加えた.不適合度に基づく相互作用場の方法は汎用性があり,材料を複雑なシステムと捉えた場合のその安定性を含めた各種統合的評価法に適用できる可能性についても検討を加えた.
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