研究概要 |
本研究の主な目的である、ダイヤモンドアンビルセル高圧装置(DAC)を用いた高圧粘度測定においてトラクション油で200℃,2GPaまで,生分解性油で200℃,3GPa程度までの測定目標をほぼ達成できたといえる.省エネ用エンジン油基油では100℃,1GPa程度まで達成できた.油高圧物性データベースをインターネットホームページも一部構築した. トラクション油については代表的な油のいくつかの高圧粘度を測定し,対数粘度一圧力関係はいずれの油,温度ともほぼ直線関係を示し,したがって粘度一圧力係数αは圧力によりあまり変化せず,温度上昇により減少し200℃の値は40℃の1/3程度となることが分かった.Barusの式とαの温度変化をよく表すEyring粘性式とにもとづく簡単な高圧高温粘度実験式を提案した.得られた高圧粘度をもとに最大トラクション係数予測の目安となる高圧高温状態図を作成し,固液境界予測線は大野らのものとほぼ一致し,状態図を2GPa,200℃の広範囲にまで拡張できた. 植物油脂系生分解性油,脂肪酸エステルで測定した高圧粘度は,対数粘度図中で緩やかな非線形曲線となり油種による差はほとんどなかった,粘度一圧力係数の圧力依存は直線的低下で温度依存は100℃で7/GPa(0.5-1.4GPa),200℃で3-4/GPa(1.8-2.7GPa)となった.相転移については10Pa・sという低粘度で非ニュートン化(室温で約0.4GPa)しその後植物油脂はすべて多結晶的な半透明状となった.高速圧縮では多結晶への転移なく(ガラス化)静的せん断抵抗発生固化圧力は1.5-2GPaとなった. 省エネエンジン油基油についてはポリアルファオレフィン(PAO4)の高圧粘度測定をDACの加圧ねじ回転角からの新しい圧力決定法を確立した後行った.文献値と一致し100℃,1GPa程度まで範囲を拡張できた.他のいくつかの油の検定実験でこの方法が1GPa,150℃まで適用可能であることを実証した. 高圧粘度挙動の物理的評価に関しては自由体積理論のWLF式を応用した安富の式が適切と思われ,分子動力学などのシミュレーションで自由体積の計算による高圧粘度予測が今後期待される. トライボCADに有用な高圧粘度文献値のデータベースホームページの構築に関しては論文などの著作権に配慮し,高圧粘度データ例としてBridgmanの論文とASMEreportほか研究代表者の論文を含めた17の論文とそれらに掲載されている油種,圧力,温度範囲のデータベースホームページを作成した.
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