研究概要 |
(1)ディーゼル機関の低粘度マルチグレード油の全摩擦損失低減の効果は,粘度等級をSAE10W-30からSAESW-30へ低げ,その規格を排ガス後処理装置保護のために低硫酸灰分・低リン・低硫黄化したDH級へ,クラスをDH-1からDH-2へとLow-SAPS化することにより一段と大きくなる. (2)ショットピーニング加工で表面仕上げした鉄基焼結合金カム・ローブをもつ複合カム軸は,従来の研削加工のカム軸に比べ,カム・ローラフォロワ動弁機構各部の摩擦損失が小さく,カム面の摩耗も少ない.カムの仕上げは,表面が粗いほどカム軸回転の高速域でカム・ローラ接触部の摩擦係数は小さくなり,二乗平均平方根粗さの値で1μmより大きく3μmより小さくする方が望ましい.またローラ部を支持する軸受の方式としては,すべり軸受の方がニードル軸受の場合より摩擦損失は小さい. (3)オイル粘度が動弁機構のカム・ローラ間の摩擦に及ぼす影響は小さいが,それ以外の要素部の摩擦に及ぼす影響は大きく,粘度が低いほど摩擦損失は小さくなる. (4)機関運転で劣化したエンジン油に摩耗防止剤ZnDTPと摩擦調整剤MoDTCを補充的に添加すると,カム・スリッパーフォロワの摩擦と摩耗を低減させることができる.しかし,すす微粒子が1%以上混入すると,摩擦低減の効力は保たれるが,摩耗低減の効力は著しく低下する.摩耗率を低く抑えるには,添加剤の補充量を6%以上とし,その後のすす混入の制限量を1%以下にすべきである. (5)オイル中のすす微粒子の画像解析とレーザー散乱法による粒径分布の測定値はほぼ一致し,両計測法の精度は高い.分散剤の量がオイル中の微粒子の粒径とその分布に及ぼす影響は大きい.すすの混入量が少ないと摩擦は低いが摩耗率はやや高くなり,混入量が多いと摩擦も摩耗も異常に増大する.また,すす粒径が小さいと摩擦は低く摩耗率も低いが,粒径が大きいと摩擦も摩耗も増大する.したがって,接触しゅう動部のオイル・スタベーションを起こす混入すすの凝集すなわち粒径の増大を防ぐだけでなく,アブレシブ摩耗の原因になる摩耗粉や硬質スラッジを含む凝集すす異物をオイルから除くべきである.
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