研究概要 |
【実験装置・方法】動脈硬化症の好発部である動脈分岐部で生じる血流の再付着流,剥離流を再現できるバックステップ型の平行平板流路を製作した.細胞試料にはウシ大動脈内皮細胞を用いた.流路のテストセクション部はUV透過型石英板を用い,その表面に血管内皮細胞(細胞バンク)を培養させた.培地には基礎培地DMEMに牛胎児血清FBS,抗生物質とEGCS(内皮細胞成長因子),EGTA,グルタミンを加えたものを用いた.実験では長時間に渡り培養培地を回流させるので,これらが汚染されないように流路系は閉流路系で行った. 循環流路にはCO_2ガス供給ユニットを設け,配管には滅菌したシリコンチューブを用いている.流れは定常流れを採用し,流量は流量計を用いてモニターし,常に一定のせん断応力が細胞に負荷されるようにした.流路系全体は温度コントロールユニットで雰囲気温度を37℃に保つ.培地を所要時間還流後,蛍光顕微鏡とCCDカメラを用いてせん断応力に対する細胞のNO産生量を測定した.測定はバックステップ近傍・流れの再付着点・再付着点の下流について行い,流れの状態・強さの違いによる細胞の生理活性の違いについて詳細に調べた. 【数値解析】米国NCSAの超並列計算機を用いて,頸動脈分岐部をモデル化した弾性分岐管における血行力学・物質輸送の数値シミュレーションを行った.解析結果により,動脈の弾性による流れ場の変化が血管内壁での細胞の物質輸送機構に多大な影響を及ぼすことが判明した.特に動脈硬化の好発部位である分岐部では著しい低酸素状態が生じることが明らかになった.また,動脈壁内部の物質輸送についても解析モデルを構築しシミュレーションを行った.一連の数値解析の研究成果は専門学術雑誌を含め,国内の幾つかの学会にて公表済み,あるいは公表予定である.
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