研究概要 |
燃料電池の原理は19世紀初頭に溯ることができるが,それ以来,純水素を燃料とする燃料電池はほとんど実用化されてこなかった。それは燃料電池の燃料である水素(H_2)の貯蔵と供給に問題があるからである。H_2は最も小さく,最も軽い分子で,金属格子内に容易に侵入し,極小のすきまでも通過してしまう性質をもっている。また,単位体積当たりのエネルギー密度が低いので,気体の場合は少なくとも35MPa程度に高圧縮するか,あるいは液化する必要がある。液化するためには-253℃まで冷却する必要があり,エネルギーコストがかかる。 水素を別の化学物質に変換し,使用する際にH_2を取り出す「水素キャリア」を用いることが考えられる。使用時には全くCO_2を排出しない燃料としてアンモニア(NH_3)がある。NH_3を燃料とすると,生成物質は窒素(N_2)と水(H_2O)だけである。ここでは,使用する際に全く無公害であるNH_3燃料電池について研究を行った。 本研究では,通常,燃料としては考えられていないNH_3を燃料電池用のエネルギー源としての新しい可能性を総合的に検討した。NH_3は水素キャリアとして有望であり,再生可能エネルギーなどを用いた新しい製造・貯蔵・輸送方法を用いれば,燃料電池などの水素供給源となり得る。また,NH_3は炭素原子を含有しない燃料であるので,地球温暖化防止効果が期待できる。 NH_3からの水素生成はメタノールと同等のエネルギー密度とエネルギーコストを示しており,H_2生成時にはCO_2を排出しないというメリットがある。コスト面でも,天然ガスからのH_2生成とも競争できる。NH_3は,安全管理と小型貯蔵容器の設計を行えば,マイクロ燃料電池用のエネルギー源となりうることも示した。
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