研究概要 |
ハロン代替消火剤であるハイドロフルオロカーボン(HFC)の性能評価及び反応機構解明に関するこれまでの研究の多くは高温で行われており,600〜1000Kの低温におけるHFCの化学的挙動は未だ明らかではない.本研究では反応装置として,従来の衝撃波管(ST),高温乱流流通管(TFR)に加えて,新たに急速圧縮機(RCM)を製作するとともに,これを用いて反応速度に密接に関連する着火誘導期の測定を行うことにより,低温燃焼に及ぼすHFC消火剤の添加効果を検討した. まず,イソブタンの着火研究を行った.イソブタンの着火誘導期は温度が下がるにつれて単調に長くなり,着火しにくくなった.これに既存HFC消火剤であるHFC-227ea(2H-ヘプタフルオロプロパン,CF_3CHFCF_3)を添加すると着火誘導期は長くなり,着火が抑制された.しかし,フッ素化されていないプロパンを添加した場合でも同程度の着火抑制効果が見られたことから,HFC消火剤独特のフッ素による化学的抑制作用は低温においては現れなかった. 一方,ノルマルブタン着火においては温度が下がると逆に着火しやすくなる,いわゆる負の温度係数(NTC)領域が観測された.これにHFC-227eaを添加すると,NTC領域において抑制ではなく逆に着火が促進した.NTC領域においては,(1)燃料から生成したアルキルラジカルに酸素分子が付加してアルキルペルオキシラジカル(ROO・)を生成し,(2)水素の分子内転位によりヒドロペルオキシアルキルラジカル(・R'OOH)に異性化し,(3)これが分解して生成したOHラジカルが連鎖担体となって燃焼反応が進む.これにHFC-227eaを添加すると,(1)で生成したROO・がHFC-227ea分子中の水素原子を引き抜いて過酸化物となり,これが分解してOHラジカルが生成するために着火が促進すると考えられる.
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