研究概要 |
ボルトの緩み,ガタ,開閉クラックなど非線形性を有する損傷部位を内包する構造システムにおいて,構造物中を伝播する波動を用いて,損傷の程度,損傷部位の位置,損傷部位の非線形特性などを同定する手法を確立することを目的に研究を行った.得られた成果は以下の通りである. 1.模擬クラックを有するはりについて波動分離に基づく損傷検出手法を適用し,クラック長さと位置検出の可否との関係を調べた.その結果,雑音の少ない良好な計測環境下においては,はりの厚さに対して25%までの長さのクラックを検出可能であることがわかった. 2.ボルト締結されたはり構造物について波動分離に基づく損傷検出手法を適用し,反射強度マップのピーク高さに着目することによって締結ボルトの段階的な欠落を追跡的に検出できることを示した. 3.波動分離におけるセンサ質量の影響の検討を行い,センサ質量の影響を考慮した波動分離式を導出して,薄肉はりにおける波動分離精度の向上をはかった. 4.ギャップを介して中間支持されたはりについて,センサアレイで計測した加速度応答から支持部の変位と支持反力を推定し,両者の関係からガタの存在とギャップ長を遠隔同定することに成功した. 5.ボルト継手を有するはりについて非線形波動変調法を適用し,ボルトのわずかな緩みを構造振動に同期した高周波波動の振幅変調および位相変調として検出できることを示した.さらに,構造振動としてインパクト加振を行うことを検討し,構造振動と同期した変調が生じることを示した. 6.疲労き裂を有するはりについて非線形波動変調法を適用し,受信側の圧電素子で観測される波形の高周波成分と低周波成分の関係から変調曲面を定義し,これを用いていくつかの損傷指標を定義した.き裂の進展による等価剛性の低下率と損傷指標の値の関係を検討し,変調曲面の微分幾何学的特徴量が損傷指標として有効であることを示した.
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