研究概要 |
本研究は,離散ホイヘンスモデル(DHM)による音場の実時間解析システムについて基礎的な検討を行った。DHMは非常に単純なアルゴリズムで音場の計算が行えるため,ハードウェア化が可能となる。研究の初期段階ではDSPによるハードウェア化を検討したが,満足行く結果が得られなかった。これは,DSPが数値計算向きではなく信号処理用のエンジンであるためである。そこで,DSPに替わるものとしてFPGA (Field Programmable Gate Array)に着目し検討を行った。DHMのセルをFPGA内部に構成するための論理シミュレーションを行ったところ,ミドルクラスのFPGAで約400個のDHM要素が合成可能であることがわかった。これを1m^3の立方室に相当する3次元モデルで考えると,最高周波数を10kHz,1波長当たり10セルを用いるとすると,ハイエンドのFPGAが数10個あれば実時間解析できることになる。同じ条件で汎用コンピュータを使用すると,40TFLOPSの地球シミュレータ規模のスーパーコンピュータが必要である。 つぎに,DHMの計算精度について検討した。DHMは演算が単純なため固定小数点演算が可能である。これは,回路規模を小さくする上で非常に大きなメリットであるが,固定小数点演算の場合の誤差が問題になる。そこで,C言語で開発されているDHMシミュレータを固定小数演算化し,データのビット長と誤差の関係を検討した。500mの音響管に相当する1次元モデルおよび1m3の残響室に相当する3次元モデルでシミュレーションした結果,32ビットあれば十分なことが分かった。これは,浮動小数点演算では単精度実数演算に相当する情報量であるため,妥当な結果であるといえる。また,残響性の2次元場について,オーバーフローによる誤差の影響を検討した。その結果,瞬時のオーバーフローについては自然に計算が回復されるが,オーバーフローの時間が少し長くなるとオーバーフローの連鎖が発生し,ランダムなノイズが出力されることが分かった。この現象は,オーバーフローによる符号反転を訂正するという簡単な対策で回避できることがわかった。実機によるデータの入出力までは実施できなかったが,これらは今後の課題としたい。
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