研究概要 |
多環芳香族系物質をLDPE(低密度ポリエチレン)に添加した材料を用いて、電気トリー(以下トリー)の発生電圧の上昇について検討を行った。用いた添加剤は、naphtalene(Nf), anthracene(An), tetracene(Te), pentacene(Pn)および9,10bromo-anthracene(Br-An)である。得られた成果を以下に示す。 1.Anを0.5〜0.75wt%添加した試料のトリー発生電圧は、無添加試料と比較して3.5〜4倍程度の上昇がみられる。他の添加剤については、Anのような顕著な上昇効果はみられない。ただし、Anの添加はトリーの進展速度を抑制する効果はない。 2.電界発光のスペクトルを観測した結果、An, TeおよびBr_Anを添加した試料において、添加剤自体からの発光と考えられるスペクトルが観測された。したがって、An添加試料のみに見られるトリー発生電圧上昇の主原因は、添加剤分子のπ電子の励起によるキャリア電子の運動エネルギーの吸収効果とは考えにくい。 3.試料材料のTSC,の測定結果から判断すると、添加剤による電子のトラップ効果がトリー発生電圧上昇の主原因とは考えにくい。 4.導電特性、誘電特性等の測定結果から、An添加試料は他の試料と比較して、導電電流が少なく、tanδも小さいことがわかった。 5.ガラス表面に溶融成形させて作製した試料表面をAFMによって観測した結果、An添加試料の表面は他の試料と比べて凹凸がきわめて少ないことがわかった。ただし、DSCの測定結果では、An添加試料のみに顕著な変化は見られない。 これらの結果から、An添加によるトリー発生電圧の上昇は、An添加によるLDPEのラメラが密に並ぶモロフォロジーの変化にもとなって、バルク中のフリーボリュームが減少していることに起因すると考えられた。
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