研究概要 |
度重なる重大事故,製造物責任法や様々な安全性に関する国際規格の制定など,システムの安全性に対する社会的な意識の向上に伴い,昨今では「安全性も重要な品質である」と広く認識されるようになってきた.今後はその理解の程度・内容が問われるが,日常生活のあらゆるところに存在する制御システム,さらには制御工学・技術はそのような意識に基づく議論はまだ十分なされていない.特に,安全に関する国際規格IEC61508(翻訳規格JIS C O508)はコンピュータなどによる計装制御技術や安全機器に対してそのリスクを確率的な基準に照らして評価することを要求するもので,その適用範囲はきわめて広範に及び,準拠しているか否かは製品などの国際競争力に直結する.その規格体系の中でも筆者がこれまでに行ってきた高安全性制御システム設計の分野は日本が世界をリードしており,日本がIEC61508に対して積極的に貢献できる数少ないテーマである.そこで,本研究では「安全性も重要な品質である」との意識を強く打ち出した制御工学・技術の新しい方向性を示し,安全工学と制御工学との間の境界領域に日本発の,日本が世界に冠たる新しい技術を確立することを目的とし,改定作業中のIEC61508に日本発の貢献をする. 1.高安全性制御システム設計によるコントロールロジックの制御デバイス故障に対する安全度をIEC61508に準拠して確率的に評価する枠組みを整備し,当該国際規格との整合性を考える上での問題点を明らかにした.そして,それに対処するために評価アルゴリズムの改善を行った. 2.その評価をベースにすることで,外乱抑制性能や目標値追従性能など,他の通常の制御性能指標とのバランスをとるようなコントロールロジック設計の枠組みを構築し,より高い実用性のためのさらなる改良を加えた.まさに「安全性も品質・性能の1つ」として扱う,確率的安全性管理である. 3.上記のIEC61508に準拠した確率的安全性評価・管理を制御の立場からより実用的にするために,それに適した高安全性制御システム設計として多目的設計の手法を取り入れ,アルゴリズム化した. 4.以上の成果は「安全性と制御性能のトレードオフを考慮した制御系設計」と題して,すでにシステム制御情報学会論文誌に投稿済みである.
|