研究概要 |
本質的に相対次数が2次の運動系に対する標準的な適応位置決め制御では,filtered tracking errorのダイナミクス(相対次数が1次になる)について,パラメータのオンライン推定値をそのまま真値と見なすという確定性等価原理に基づいて適応制御設計を行っている.確定性等価原理に基づくので、フィードバック制御器と適応機構が複雑に絡み合うこととなり,従来のマイナーループを持つPI制御器よりは,制御系の構造がはるかに複雑になる.この構造の複雑さとともに調整(設計)の困難さが、このような適応制御の現場での普及の妨げになっていると思われる.一方,次世代の適応制御設計手法とされているバックステッピング設計手法は,1990年代から活発に研究されてきたが,n次のシステムに関する一般的理論が中心で,運動系制御に特化した定式化はあまり見られない. 本研究では,運動系に対してバックステッピング設計に基づく適応ロバスト制御器の設計法を提案する.この提案法は,確定性等価原理に基づかない方法であり,まずロバスト制御機構によって制御系の過渡特性と誤差バウンドを理論的に保証し,この保証の下で制御誤差をさらに減少させるために適応機構を用いるという設計法である.すなわち,この設計法により得られる制御器は,外乱やモデリング誤差,及び適応機構自身によるパラメータ推定値の摂動などにロバストな非線形制御器をオンラインで適応調整するという意味での適応ロバスト制御器である. さらに,バックステッピング設計による適応ロバスト制御器の構造に対して,古典制御からの発展という新しい視点での解釈を与えている.この解釈により,一見複雑そうな適応ロバスト制御器が,従来のマイナーループを持つPI制御器に,フィードフォワードモジュール,ロバストモジュール,適応モジュールなどを階層的に加えて行くことによって構成できることを明らかにした. 本研究によって,適応位置決め制御系には,確定性等価原理に基づく適応制御ではなく,バックステッピング設計による適応ロバスト制御の方が,理論的にも実用的にも適切であることが明らかになったと言える.
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