研究概要 |
わが国の分譲集合住宅ストックは今や400万戸を超え、うち築後30年を超えるマンションが12万戸に及ぶといわれる。これを背景として我が国では現在、都市再生や団地再生を巡る各種事業、または、マンション関連法規の改正・新規成立などによって、分譲集合住宅を大量に建替える整備が進みつつある。 これまでの分譲集合住宅の建替え事例は、震災等を除くと100件余りであり、事例数として甚だ少ない。申請者がここ十数年来研究対象としている同潤会アパートは全16カ所中14カ所が既に建替えられており、その少ない事例に位置づけられる。 まず初年度において、現在建替え中であり、かつ建替経緯において申請者が従前建物の記録保存に取り組んでいるアパートを対象に、建替決定に至る過程を整理した。これにより、従前環境の相違がもたらす建替え経緯の類型化を行った。類型化の際、特に(1)「従前環境の成り立ちの相違に関する考察」,(2)「建替に関わる外部組織の違いに関する考察」,(3)「建替計画の社会的条件の違いに関する考察」に注目し分類した。また、現在建て替え中のものについては建替中に起きる仮住まいの問題、転出者の問題を抽出し、建替中の環境移行時における建築計画上の諸問題を明らかにした。 次に既に建替が完了している同潤会アパートを対象とし、建替によってもたらされた環境を居住の継続性という指標のもとに検証し、今後の分譲集合住宅建て替えにあたって留意すべき建築計画的課題を洗い出した。 これらの結果,自治体の財政的問題,都市計画的問題,合意形成の問題,コミュニティ再建の問題,零細権利者や高齢者など建替え弱者と言える層が救済できていない現状等,居住の持続性から見ると数多くの未解決の部分があることを指摘できた。現状を把握することで改善・克服できる課題もあり,今後はまずそれらを提言していきたいと考えている。
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