研究概要 |
寺院・神社は都市内施設としては特異なほど長い歴史を有し,今なお市街地に数多く分布している。本研究は,大都市内における寺社境内の空間が,市街地の中にあってどのような空間として存在しているのかという点に着目し,形態・機能・認知という3つの側面から考究することを目的としている。 最初に,現在の寺社配置が定められた江戸期まで遡り,政治的・社会的な要因に伴う境内の歴史的変遷について,文献・資料に基づいて簡潔に整理した。また,寺社境内の機能と認知の点に関しては,以前の調査結果を再度分析し,来訪者の行動の種類・滞在時間等,境内空間の利用形態の特性を明らかにするとともに,寺院と神社の認知状況の差異について検討を加えた。さらに,東京都23区および江戸期,京都市,大阪市における寺社境内の数値データを整備し,形態的特徴と分布様態,緑地としての存在意義について考察し,以下の知見を得た。 (1)寺社境内の数密度は,3都市いずれにおいても寺院は神社よりも高い値を示す。 (2)最近隣指標を用いて分布パターンを判定すると,3都市・江戸期ともに寺院が凝集型で,神社がよりランダム型に近いパターンとなっている。 (3)敷地形状の複雑性を形態係数(面積と周長の二乗の比率)をもとに計量すると,東京都・大阪市では神社・公園に比して寺院は複雑であるのに対し,京都では両者の関係が逆転する。 (4)境内の接道率(街路に接する敷地の長さの割合)は,東京都と京都市では寺院よりも神社のほうが高く,神社は公園並に街路に接しており開放的であるのに対し,寺院は街路からやや離れて奥まった形で配置されている。 (5)東京都においては,最近隣の寺社は平均して約500m以内にあり,徒歩でアクセス可能な身近な空地となっている。 (6)東京都においては,寺院・神社境内ともに,全体の平均よりも緑被率の高い空間であり,地域の身近な小規模緑地環境として重要な役割を担っている。
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