研究概要 |
低濃度のイットリア(1.5〜1.9mol%)を含むジルコニアの正方晶相は急冷により室温まで持ち来すことができる.この準安定な正方晶相は200℃近辺の加熱により等温的に変態すると共に室温以下に冷却すると非等温的に変態することが知られている.これらの変態は共にマルテンサイト変態であると考えられるが,生成温度や変態のキネティックスが顕著に異なるので結晶学的様相も異なる可能性がある.本研究ではこれらのマルテンサイトの結晶学的な様相を走査型および透過型電子顕微鏡(SEM,TEM),原子間力顕微鏡(AFM),反射電子回折法(EBSP)を用いて観察し,マルテンサイトの現象論と比較検討することを目的としている.以下に本研究で得られた主な結果を要約する. 1.等温マルテンサイトは典型的な薄板状マルテンサイトの形態をとり,非等温マルテンサイトはレンズ状の形態とピラミッド状の形態をとる. 2.レンズ状マルテンサイトの形態はFe-Ni合金のマルテンサイトに類似するが,TEM観察ではミッドリブはみられないが,(101)m双晶とみられるストライエーションが存在する.薄板状のマルテンサイトにも同様のストライエーションが存在するが,レンズ状のものと比べてまばらである. 3.薄板状のマルテンサイトもレンズ状のマルテンサイトも晶癖面は共に(310)c近くであり,これは格子不変歪みとして(101)m双晶を仮定した現象論計算結果と一致した. 4.レンズ状マルテンサイトの表面起伏の傾斜角もまた現象論計算結果と一致した. 5.ピラミッド型のマルテンサイトは電子顕微鏡観察より4つのバリアントから形成することが明らかとなったが,具体的バリアント構成に関してはさらに今後の研究課題としたい.
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