研究概要 |
結晶中の転位,キンク,亀裂などは弾性論の立場から見れば連続媒質中の特異点あるいは特異線である.弾性論でこれらの特異点を取り扱う際の最大の問題点は,対象が格子の周期で変化する性質を持っていることをあからさまにはとり入れることができない点にある.一般に,特異点は,運動の際に格子の周期性を感じ,それに応じて加速減速を繰り返しながら進むので,フォノン輻射がおき,運動エネルギーの散逸がおきる,この点も考慮して,転位,キンク,亀裂などについて運動方程式が議論されることは非常に少ない.格子振動の輻射に関して,以下のような計算を行った. 半導体結晶中にキンク対を持ったらせん転位を導入し,外力をかけた状態でのキンクの運動を計算機でシミュレーションした.原子間相互作用はStillinger-Weberポテンシャルを使用した.キンクの速度は外力とともに増加するが,直線転位で計算したときと同じように,速度が不連続的に増加するところがみられる.直線転位の場合には,転位の運動で輻射されるフォノンのスペクトルが急に変化するところが,速度と外力の関係での不連続な部分になって現れた.キンクの場合も同様なことが起きていると考えられる.外力をさらに大きくすると,キンク対の多重形成も見られた. 串団子モデルの単純立方格子に亀裂を入れて,簡単な原子列間ポテンシャルを仮定して,亀裂の運動のシミュレーションをした.ボンドが切れるたびに格子振動が輻射される.しかし,亀裂の場合には表面エネルギーの寄与も大きく,同じ外力を与えても表面エネルギーが大きな系では小さい系と比べて,亀裂速度が大きくはならない.超音速運動も表面エネルギーが小さい系でしかおきない. Peierlsポテンシャルの頂上に転位を置き,自由に運動させると転位はPeierlsポテンシャルの谷底で振動する.振動の途中で格子振動を輻射するが,転位の振動は近似的に減衰振動の式で表現できる.
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