研究概要 |
多くの物質は正の熱膨張を示すが、ZrW_2O_8は等方性固体でありながら、0.3-1050Kの広い温度範囲で負の熱膨張を示す非常に興味深い物質である。我々のグループは熱容量測定から、ZrW_2O_8やHfW_2O_8の室温付近における相転移は秩序・無秩序型相転移であることを世界で初めて見いだした。本研究では負の熱膨張物質ZrW_2O_8のZr^<4+>サイトを3価のSc,Y,In(f電子を含まない)、Tm,Yb,Lu(f電子を含む)ならびに2価のMg,Znなどの低原子価イオンで置換することで、置換イオンの周囲に無秩序なナノ空間を形成し、相転移温度を制御することを研究目的とする。 固相法と前駆体法によるZr_<1-x>M_xW_2O_<8-y>(M=Sc,Y,In,La,Gd,Tm,Yb,Lu,Mg,Znなど,x=0-0.2)試料の合成を試みた。その結果、3価のSc,Y,In(f電子を含まない)およびTm,Yb,Lu(f電子を含む)の合成に成功した。しかし、2価のMg,ZnなどによるZrサイトの置換は不可能であることを明らかにした。 合成に成功した試料の相転移前の低温規則相に特有な310面の超格子回折ピーク面積強度S_<310>と、メインピークである210面の面積強度S_<210>との比S_<310>/S_<210>を温度の関数として測定し、S_<310>/S_<210>の消滅温度を、相転移温度とした。その結果、Scの4%置換で相転移温度が80Kも減少するという興味深い結果を得た。放射光測定から、相転移温度と配向無秩序なWO_4対のナノ空間数との間に良い相関があることを見出した。このナノ空間の結晶構造は非平衡状態の高温相であり、置換イオンの周囲に形成されている。相転移温度の急激な減少は、試料内に配向無秩序なWO_4対を含むナノ空間が生成されるモデルで説明できることを明らかにした。これはナノ空間導入による相転移制御への有用な知見である。
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