研究概要 |
現在の利用可能なウイルスの検査方法には、各ウイルス固有のタンパク質または抗ウイルス抗体を抗原抗体反応によって検出する免疫学的検査と、ウイルス遺伝子を直接PCR反応によって増幅して検出する核酸増幅検査がある。これらの方法は高感度でウイルスの同定も可能であるが、特異的な抗体タンパク質やDNAプローブを必要とし、免疫学的・遺伝学的情報が無い新規ウイルスを検出することは出来ない。一方,組換えタンパク質の大量発現のための遺伝子ベクターとしてウイルスを利用する基礎研究においてはウイルス感染プロセスを解析する必要があり、それには放射能標識ウイルスの利用が不可欠である。 本研究では,バキュロウイルスをモデルウイルスとし、免疫学的・遺伝学的情報に依らない感染性動物ウイルスの全く新しいin vitroウイルス標識検出方法を開発した。感染に直接関与しないウイルス表層のリン脂質膜(エンベロープ)に着目し、(1)ホスファチジルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼ(PEMT)によってエンベロープが酵素的に放射能標識できること、(2)感染性の標識バキュロウイルスのみが宿主細胞との特異的な結合によって共存する未反応の放射性基質と分離して分析できることを明らかにした。Envelope-Labeled Virus Assay(ELVA)と命名したこのウイルス標識・検出方法は、免疫学的・遺伝子的情報を全く必要としないことから、未知ウイルスの検査方法としての可能性も期待できる。 次に,ELVA法をウイルス安定性の評価に応用した。すなわち,種々条件下で処理したバキュロウイルス試料をELVA法で分析し,先の細胞結合放射能とウイルス力価の相関関係から残存するウイルス力価を測定した。その結果,種々条件下におけるバキュロウイルスの失活挙動が明らかになった。
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