研究概要 |
本研究の当初の目的は,ヒサカキの雌株・雄株間に見られる成長様式や栄養成分,二次代謝産物量の差違が潜葉性小蛾であるヒサカキムモンハモグリガの生態およびその寄生蜂群集に与える影響を明らかにすることであった.しかし,ヒサカキムモンハモグリガの雌株・雄株間での密度の違いは年次によって異なり,寄主植物の雌雄性が植食性昆虫に与える影響を明確にすることはできなかった.その代わり以下の重要な知見が得られた. 1.ヒサカキムモンハモグリガは旧年葉にもっぱら産卵し,当年葉にはほとんど産卵していなかった.当年葉は旧年葉に比べ,窒素量が少なく,窒素炭素比が低いことから栄養的に劣り,またカテキン類のひとつであるエピガロカテキン量が高かった.また,当年葉に強制産卵させたところ,孵化した幼虫のほとんどが変形した葉組織細胞に囲まれ死亡した.したがって,雌成虫が当年葉にほとんど産卵しない適応的意義として,当年葉の栄養的な質の低さではなく,潜孔に対する当年葉の過敏感応答を回避している言える. 2.ヒサカキムモンハモグリガ幼虫を実験的に殺した葉と生かしたままの葉でその後の落葉率を比較した野外操作実験から,ヒサカキムモンハモグリガ幼虫は自身が潜っている葉が劣化し落ちることがないよう,羽化直前まで落葉を抑制し,結果として生存率を高めていることがわかった. 3.ヒサカキムモンハモグリガの寄生蜂群集は12種からなり,うち1種がkoinobiontであり,他はidiobiontであった.この寄生蜂群集の多種共存機構として,優占種であり,ヒサカキムモンハモグリガを専門に利用するkoinobiontに対するidiobiontの高い二次寄生率と,これらidiobiontの広い寄主利用幅があげられた. 4.大阪府立大と北海道大学に所蔵されている標本と野外採集で得られた標本から4未記載種を発見した.また,東南アジア島嶼域には分布しないとされていたムモンハモグリガ上科がインドネシアのジャワ島にも分布することを確認した.
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