研究概要 |
紅色光合成細菌Rubrivivax gelatinosusの光化学反応中心複合体に結合するチトクロムサブユニットを、立体構造の解明されているBlastochloris viridisのものに置き換えたキメラ反応中心を材料に、このサブユニットの主に荷電アミノ酸に対して網羅的な部位特異的変異導入を行った。得られた約50種の変異チトクロムに対する時間分解分光測定により、以下の新しい知見を得た。 (1)生理的電子供与体である水溶性のチトクロムc_2からの電子伝達は、反応中心結合チトクロムに4つ含まれるc型ヘムのうち、最も末端に位置するヘムが直接の電子受容体として働いていること、また、その分子認識には静電的な相互作用が最も重要であることを示した。認識に必要な点電荷の位置を立体構造上に特定することが可能となった。 (2)サブユニット内部でヘム近傍に位置するアミノ酸の荷電を変えることで、ヘムの酸化還元中点電位を最大400mVまで変化させることに成功した。また、ヘム中央に位置する鉄分子への軸配位子であるメチオニンまたはシステインを他のアミノ酸に置換することにより約450mVもの中点電位の変化が引き起こされることを示した。 (3)4つのヘムの酸化還元中点電位は、変異導入無しのキメラ反応中心では-60,310,60,400(mV)の順に並んでいるが、(2)の変異株では400mVの高電位ヘムが0mVとなった。すなわち、低-高-低-高の中点電位配置が低-高-低-低となり、これによりクロロフィル二量体への電子伝達速度が約100倍遅くなった。このことは、エネルギー的に不利に見える低電位ヘムを経た電子伝達が実際に起こっていることを示すと共に、両末端の電子供与体・受容体の間に有意な電位差があれば、最終的に電子はあたかも熱力学的なローラーコースターを滑るように伝達されるというモデルを支持した。
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