研究概要 |
アマガエル下腹部皮膚から水チャンネルアクアポリン(AQP)をコードする3種類のcDNA(AQP-h1,AQP-h2,AQP-h3)を得たことを基盤に,カエルにおけるAQPによる水吸収の分子細胞機構と多様性に関する研究を行った。1.アマガエル変態過程での下腹部皮膚におけるAQP-2やAQP-h3の発現は,変態最盛期に見られ,アルギニンバソトシン(AVT)受容体発現とも一致していた。2.膀胱の顆粒細胞におけるAQPのリン酸化の役割を解析した。AQP-h2のリン酸化は細胞質の小胞で起こり,その後リン酸型AQP-h2がアピカル細胞膜へ移行すること,さらにリン酸化がAQPのトランスロケーションに必須であることを示した。3.アマガエル下腹部皮膚から皮膚顆粒細胞のバソラテラル側に発現するAQPをクローニングし,AQP-h3BLと名付けた。下腹部皮膚では,AVT刺激でアピカル膜へ動員されたAQP-h2やAQP-h3により細胞内に水が入り,バソラテラル膜に局在しているAQP-h3BLにより水は細胞外へ出て体内へ取り込まれると推定される。3.カエルではAVTの生合成過程で生理活性をもつ中間代謝物ハイドリン1(AVT-GKR),ハイドリン2(AVT-G)が生成される。ハイドリンとAQPの関連性を調べるために,アマガエルの下腹部皮膚の水透過性とAQP-h2およびAQP-h3の動態を調べた。ハイドリンによってAQP-h2およびAQP-h3は顆粒細胞のアピカル膜ヘトランスロケーシンし,水吸収量はAVT>ハイドリン2>ハイドリン1の傾向を示した。4.AQPのcDNAクローニングやAQP抗体の交差反応を利用した免疫組織学によって,生活様式の異なるカエル種におけるAQP遺伝子やタンパク質の発現を調べた。膀胱では全種のカエルでAQP-h2様タンパク質が検出された。このことは,AVTによるカエル膀胱からの水吸収調節にはAQP-h2ホモログを介した共通の機構が備わっていることを示す。下腹部皮膚では,AQP-h3様タンパク質/遺伝子は全てのカエルで発現しているが,AQP-h2様タンパク質/遺伝子は樹上性や陸上性のカエルにのみ検出された。水の乏しい環境に生息するカエルは,このふたつのAQPの協調作用で水吸収量を高めていると推定された。
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