研究概要 |
生物時計については,これまでのところ概日リズムをつくる時計がよく知られているが,タイマー時計についてはほとんど研究がない。報告者は,雄コオロギが約1時間の砂時計式タイマーをもつことをみいだし,それが最終腹部神経節に局在することを証明した。このタイマーの本体であるニューロンの同定をめざし,そこから影響を受けていると思われる運動ニューロンの活動をしらべた。具体的には精包準備行動(タイマーのスタート)後のスパイク頻度の変化を解析した。その結果,挿入器ニューロンは,精包準備後約8分で活動を停止した。交接器支配ニューロンには,8分で停止するもの,約10分まで減少して安定するもの,逆に増大して10分以後に安定するものなどがあった。腹葉支配ニューロンには,30分から減少し40分で安定するものと,逆に30分から発火して40分で安定化するものがあった。正中嚢支配ニューロンには,2つのスパイク群があり,その1つは,最初持続発火し,その後,バースト発火に変わり40分で安定化した。これらの時間依存的活動は,常にスパイク活動の変化が一定しており,最終腹部神経節を分離しても変わらなかった。このように異なるニューロンに異なる発火司令を送るものとしては,おそらくタイマーニューロンではないか思われる。一方,これらニューロンの標的器官の切除や支配神経切断によっていびつな精包ができた。このことは,これらの器官が精包材料の受け取り,分割,鋳型への搬入,保持などを分担して行っており,正常な精包形成には欠かせないものであることを示している。また,タイマーの修飾に関しては,雄を30分のストレス下におくと,タイマー時間が約20-30%短縮することが判明した。さらに付属腺から神経除去を行うと,これによっても30%の短縮がおこった。これらはいずれも生体アミンであるオクトパミンの影響によるものであることを示唆している。
|