研究概要 |
軟体動物前鰓類イボニシの生殖活動の調節に関わる神経ペプチド系を解析するため、初年度にイボニシから同定した生理活性ペプチドの作用と局在を検討した。まず、生殖活動に直接関係するペニス、前立腺、カプセル腺などの生殖付属器官、生殖行動に伴って調節を受けると考えられる消化管(食道)および心拍動に対する生理作用を検討した。その結果、ペニスにおいては、FLRFamide、tachykinin(TK)がもっとも低濃度で収縮作用を示し、FRFamide, WWamide, allatotorpin様ペプチド(ALP)が抑制作用を示した。また、前立腺・カプセル腺では、TEP、ALP、APGWamide、FLRFamideが強い増強作用を、myomodulin(MM)、LRDFVamide、WWamideが抑制作用を示した。これらのペプチドは生殖関連組織の機能調節に直接関与することが示唆された。一方、イボニシ摘出心室標本の拍動は、FLRFamide, FMRFamideによって増強され、MMによって抑制された。さらに、食道の自動収縮は、TK, TDPにより増強され、エンテリン様ペプチド(TERP)によって抑制された。これらのペプチドは生殖に関連した行動の調節に関与する可能性がある。 次に、昨年度に作製した8種の抗神経ペプチド抗体を用いて、各ペプチドの中枢神経系における分布を検討した。パラフィン切片上で免疫染色を行い、ペプチド含有神経細胞を可視化した。その結果、いずれの抗体に対しても免疫陽性細胞が中枢神経系を構成する神経節内に見つかった。陽性細胞の多くは細胞体の直径が10-20μm程度の小型のものが多かった。各神経節内における陽性細胞の分布は、ペプチドによって異なるが、例えば、脳神経節の腹側にはFRFamide, WWamide, TKを含む神経細胞が多く集まり、食道下神経節には、TERP、TK、GKWamideを含む神経細胞が多かった。また、前立腺・カプセル腺周辺の末梢組織にFRFamide等の神経ペプチドをふくむ神経繊維が分布していた。以上のことから、イボニシの生殖活動が多様な神経ペプチドによって調節されることが明かとなった。
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