研究概要 |
本研究では,概日時計を構成するニューロンネヅトワークの構造を明らかにすることを目的として,概日時計ペースメーカーニューロン(以下,CPNと略記)のシナプス前および後要素の検索・同定を行った。ショウジョウバエやルリキンバエでは,CPNが視葉副視髄で入力を受け,前大脳背側部で出力していると考えられている。本研究ではこれら2つの領域に注目して,免疫電顕法等を用いてCPNとシナプス結合するニューロンの特定を試み,以下の結果を得た。 1.ルリキンバエには,ショウジョウバエのCPNであるs-LNvsに相同と考えられるニューロン(Pt-PDF/LN)が存在する。Pt-PDF/LNは,副視髄で網膜外光受容器(Pt-eyelet)からシナプス入力を受け,前大脳背側部でPLニューロンにシナプスを介して出力していることが明らかになった。Pt-eyeletは複眼後縁部に位置する網膜外光受容器であり,PLニューロンは,側心体やアラタ体へ投射し,短日低温条件で卵巣発達を抑制するニューロンと考えられている。本研究の結果は,光周時計と概日時計の相互作用を調べるうえで,重要な知見を提供するものである。 2.ショウジョウバエのCPNであるs-LNvsは,前大脳背側部において神経ペプチドPDFの局所的放出による出力のほかに,‘速い'伝達物質を介するシナプス出力をしていることが明らかになった。この結果は,s-LNvsからの時計情報の出力はもっぱらPDFを介する,という従来の考え方に対して,s-LNvsの機能を解明するうえでは,シナプスを介した速い出力も考慮に入れなくてはならないことを示した重要な知見である。さらに,s-LNvsが前大脳背側部でシナプス入力を受けていることも確認された。これは,前大脳背側部においてs-LNvsの出力が,他の時計ニューロンなどによって修飾されている可能性を示唆するものである。
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