研究概要 |
ユリ科のギボウシ属とシソ科のヤマハッカ属について,核遺伝子を用いた解析を行った.ギボウシ属については,藤田(1976)によって記載されている分類群のうち,明らかに自然交雑起源であるものを除き,1分類群につき1個体からDNAを抽出,アルコール脱水素酵素2遺伝子座(Adh-1,Adh-2)およびグリセリンアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素(Gap)をPCRによって増幅し,クローニングを行った.各個体から複数のクローンを選んで,合計約2260塩基対の配列を決定した.葉緑体DNAについての予備的なデータと比較して,明らかに変異が多数見られ,ギボウシ属のように急速に分化したと考えられるグループの系統推定に,核遺伝子が有効であることが示された.同一個体からのクローンは,大部分は単系統性を示すが,一部の分類群からのクローンでは異なるクラスタに属する場合があった.これは,交雑に由来する可能性とlineage sortingの可能性の両方があり得る.また,同様に急速に分化したと推定されるヤマハッカ属について,葉緑体DNA,核18S-26S ITS領域,5S ITS領域の塩基配列を決定した.葉緑体DNAによる系統解析では,同一の分類群が異なるクラスタに属する場合が頻繁に見られた.これは,上記のギボウシ属の場合と同様の状況である.2つのITS領域の変異から,ヤマハッカ属では,交雑が頻繁に起きていることが示唆された.
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