研究概要 |
ミズトカゲ属Tropidophorusは,インドシナ半島,ボルネオ,スラウェシ,フィリピン諸島に分布し,29種が知られている.この内,17種について得られた組織資料を用いて,DNA塩基配列に基づく系統解析をおこなった.その結果,この属は単系統ではなく,2つのクレードからなることが明らかとなった.ひとつはインドシナ半島に分布し,もうひとつはインドシナ半島から島嶼域に広く分布する.後者はさらに3つのクレードに分かれた.この結果に基づいて,ミズトカゲ属を再分類し,Asprisと狭義のTropidophorusに分割し,後者をさらに3つの亜属に分けた.Asprisはインドシナ半島に分布し,広域に分布する狭義のTropidophorusのうち,亜属Tropidophorusはインドシナ半島に,亜属Norbeaはボルネオとミンダナオに,亜属Enoplosaurusはフィリピン北部とスラウェシに分布する.このような系統地理学的な分布パターンは,Norbeaがミンダナオに侵入し,ミンダナオでは先住のEnoplosaurusが絶滅したことを示唆している.種分類については,アメリカ合衆国,中国の博物館,研究所のタイプ標本を含む所蔵標本を調べることによって,いくつかの分類状の問題点が明らかとなり,いくつかの重要な分類形質を発見することにより,それらの問題を解決することが出来た.たとえば,T.stejnegeriはT.misaminiusの新参異名とされてきたが,この2者の形態の違いや同所的に生息しているいう,原記載者の観察が正しいことが再確認された.また,T.yunnanensisはT.berdmoreiの新参異名とされてきたが,多くの地域の標本を調べることにより,鱗のキールの有無や後肛部の尾下板の形の違いから,これらが別のものであることを示すことが出来た.
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