研究概要 |
1.ニホントガリシダハバチcomplexの寄主転換に起因する同所的種分化の過程における生殖隔離の形成機構:本種は日本列島で南北約1,000kmの分布域を持つが、現在紀伊半島の北緯33度40分付近を東西に伸びる南北約10kmの狭い帯状地帯において、ジュウモンジシダ生態種から寄主転換を伴ってイノデ生態種を派生する同所的種分化が進行中である。ミトコンドリアDNAのCOI領域の塩基配列の比較に基づく分子系統樹からも、2生態種の形成には地理的隔離は介在していないことを裏付けた。帯状地帯の個体群の交配実験等から、1遺伝子座支配による分断的産卵選択性、寄主植物上での同族交配、条件付け効果による派生生態種幼虫の旧寄主植物への不食化、派生生態種の遺伝的独立性を保障する一方向選択交尾等の生殖隔離要因が、帯状地帯に集中的に相互作用し、同所的種分化を可能にしている事実を解明した。 2.カタアカスギナハバチの染色体再配列による側所的種分化の成立機構:日本列島に広く分布する本種には、n=9,n=10,n=11の3種類のロバートソン型染色体多型が存在し、n=9→10→11の順に派生し、派生型が旧核型を駆逐して分布を拡大している。特にn=9♂,2n=18♀個体群とn=11♂,2n=22♀個体群は側所的に分布し、両者には生殖隔離が成立している。受精卵の発生胚の核型解析から、両者のヘテロ接合体(2n=20♀)の不発生が強力な生殖隔離要因であることを明らかにするとともに、2n♀間の適応度の差が分布置換の要因であることを突き止めた。 3.3倍性雌性産生単為発生種タビラコハバチの即時的種形成:3倍体雌性産生単為発生種の発見はハチ目において世界で始めてであり、即時的種分化の可能性を示唆した。 4.総括:地理的隔離を前提としない非異所的種分化の形がハバチ類には複数存在し、それぞれの種の生物学的特徴と深く結びついていることが明らかになった。
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