研究概要 |
中国山地では,多数のザトウムシ類で外部形態や染色体数の著しい地理的分化が生じている(鶴崎2003;2007)。本研究では当地域の地理的分化の起源を理解するうえで重要な隠岐諸島や淡路島,近畿地方北西部など中国地方周辺地域での各種の地理変異の様相の把握につとめた。主要な成果は次のとおりである:1)隠岐諸島から中国山地では未確認のピコスベザトウムシLeiobunum hikocolaを初めて確認した。2)中国由地ではほぼ日野川・旭川のラインで交尾器および核型が分化するヒライワスベザトウムシL hiraiwaiについて,全国的な地理的分化を解析し論文をまとめた。3)兵庫県内のアカサビザトウムシGagrellula ferrugineaの2n=14/16集団,16/18集団の分布境界と交雑帯を確認した。5)ピコナミザトウムシNelima nigricoxaは丹波市付近で2n=16から2n=18に,オオナミザトウムシN.genufuscaも同地域で2n=18から2n=20に,東に向かって置換することを確認した。これらのヘテロ接合核型個体の適応度は,鳥取県大山周辺にみられるヒコナミ交雑帯(2n=20/18,2n=18/16)のそれらよりも著しく低い。これには,丹波市付近におけるピコナミとオオナミという酷似した2種の同所的生息が影響していると示唆された。6)海岸性種であるヒトハリザトウムシPsathyropus tenuipesの染色体を九州・四国・淡路島などの11集団で調査し,本種のB染色体数が,瀬戸内海沿岸のみでなく,紀伊水道・豊後水道沿岸の四国や九州でも少ないことを明らかにした。これらの成果をもとに中国地方と周辺の生物地理の問題点と課題について総説にまとめた。
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