研究概要 |
島嶼域の蘇苔類の系統と種分化を解析し,それらの祖先種を探索するため,シラガゴケ科種群を中心に,日本本土,南西諸島,小笠原諸島のほか,インドネシア,太平洋諸島で試料の採取を行った.得られた試料を光学顕微鏡下で比較形態学的研究を行い,外部形態による種の同定を行った.観察した試料の一部を広島大学植物標本庫(HIRO)のデータベースに登録するとともに植物標本として保管した. 試料からDNAを抽出し,ITS領域,rbcL遺伝子部分の塩基配列を決定した.これまでに得られた塩基配列をもとに系統樹を作成し,島嶼におけるシラガゴケ科蘇類を中心とする蘇苔類の種分化傾向を解明した.小笠原諸島産のムニンシラガゴケ(Leucobryum boninense)は,小笠原で種分化した固有種であり,東アジアに分布するオオシラガゴケと近縁であることをつきとめた.また,これまで小笠原以外からムニンシラガゴケと報告されてきた種はLeucobryum scaberulumとして独立させるべきであることが分かった.この結果は大洋島における蘇苔類の種分化過程を示すものである.また,ムニンシラガゴケは小笠原諸島内で集団間の遺伝的分化が不明瞭であり,種内分化は認められず近縁種もないことから,維管束植物と比較すると種分化により長い時間をようするものと考えられた. その他,調査の過程で各島嶼において複数の新種,新産種を見出した.南西諸島から発見した新種は,フチドリコゴケ(Pachyneuropsis miyagii)として発表された.本種は沖縄島の琉球石灰岩の露頭でのみ生育しており,島嶼による地理的隔離,島嶼内での地質要因によって,特殊に分化した種であることが推察された
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