研究概要 |
車軸藻ミオシンは毎秒70μm以上の速度でアクチンフィラメント上を滑り運動する世界一速いモータータンパク質である。我々は動物より速い滑り運動をおこなうこの車軸藻ミオシンの性質に興味を持ち,世界に先駆けてクローニングに成功した(2000年)。アミノ酸配列から予想される車軸藻ミオシンの首にあたる部分(レバーアーム)の長さは筋肉ミオシンより3倍も長かった。速さの理由の一端はこの首振りストロークの大きさにあることがわかったが,それだけではまだ10倍にはならない。ATP加水分解活性に違いがあるはずだが,車軸藻からミオシンを精製することは非常に難しく,生化学的な測定をおこなえる量のミオシンを得ることは実際不可能であった。 しかし,ごく最近我々はこの車軸藻ミオシンを高い運動活性を保ったまま昆虫培養細胞内で発現させることに成功し,ミリグラム単位の車軸藻ミオシンを短時間で得ることが可能になった。そこで本研究ではこうして発現させた車軸藻ミオシンを用い,ATP加水分解やアクチンとの結合・解離の速度定数をストップトフローなどの生化学的手法を使って詳細に調べた。車軸藻ミオシンの速さの秘密は強い結合の時間、すなわち、首振り後まだADPを結合しているアクトミオシン状態(AM・ADP)とそこからADPが解離した後の状態(AM)での滞在時間が短く、すぐに次のサイクルに入れることであることを明らかにした。それらの状態の滞在時間が短いことの理由を知るためにアクチン非存在下でミオシンに結合したADPの解離速度定数や、活性部位に結合したATPがミオシンに構造変化を起こさせる速度を調べた。その結果、車軸藻ミオシンは、それ自身のADP解離速度はあまり速くないが(骨格筋ミオシン並み)、アクチンが結合するとその解離速度が非常に高くなることがわかった。また、ATP結合による分子構造変化速度はこれまで知られているものの中で一番速かった。これらの結果から、車軸藻ミオシンはヌクレオチド結合部位とアクチン結合部位の連絡が非常に良く、一方に伝わった情報が非常に速やかに他方へ伝わるということが明らかになった。この伝達の速さが車軸藻ミオシンの高い運動性の本質的理由と言える。
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