研究概要 |
テッポウユリは長年にわたって自家不和合性を示すと考えられてきたが,筆者らは,集団遺伝学的分析に基づき,テッポウユリにおいて,自家和合・不和合性に関する種内変異がある可能性を予言し,その後,自生分布域北部に位置する屋久島と喜界島の集団が,自家不和合性個体が優占する集団であることを実際に見いだした.本研究では,分布地域をほぼ網羅するよう選抜したテッポウユリ18集団およびテッポウユリ近縁種であるタカサゴユリ3集団の自然交雑種子より育成した実験実生集団を用いた自殖種子生産調査,自家花粉管伸長観察,花器形態調査,AFLP系統分析を行い,テッポウユリにおける自家和合・不和合性の発現様式,地理的分布および成立背景について以下のことを明らかにした. 1)分布域の北部(黒島,屋久島,喜界島,奄美大島)および南部(蘭嶼島)に自家和合性個体が優占的な集団が存在する. 2)テッポウユリの自家不和合性反応は量的であり,花柱内だけでなく,子房内でも起こっている. 3)テッポウユリの自家和合性は優性遺伝する. 4)分布域北部の自家和合性優占集団では花柱長,雄蕊長,および花粉量の減少が生じており,それは,これらの集団が自殖性へシフトしている事実と密接な関連があると考えられる. 5)分布域の北部と南部に存在する自家和合性優占集団は,異所的に成立した別系統である. 6)蘭嶼島集団の個体はテッポウユリからタカサゴユリへの分化過程における中間型と考えられる.
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