研究概要 |
昭和基地周辺の土壌生態系に及ぼす人間活動の影響をセルロース分解活性,キノン組成および藻類組成を指標として長期間監視した。基地の排水処理水放出口付近ではセルロース分解が促進された年があったが一過性であり,その影響は速やかに回復可能なものであると考えられた。他の生活圏では未汚染の裸地と同様に推移したことから,何らかの汚染があったとしても,セルロース分解に対しては影響を及ぼすものではないと考えられた。また,キノン組成を解析したところ,未汚染の裸地ではActinobacteriaが優占しているのに対し,ペンギン営巣地,汚水処理水放出口および物資搬入口の付近ではActinobacteriaが減少してα-, β-またはγ-Proteobacteriaが優占しており,これが基地周辺の土壌が富栄養化した際の微生物群集の共通の特徴と考えられた。また,物資搬入口付近では近年,本来の群集構造に回復しつつあることが示唆された。以上より,基地周辺における土壌の富栄養化の進行や回復を監視する際には,MK-7(H4), Q-8, Q-9およびQ-10の割合が有効な指標と考えられた。一方,観測隊の生活圏より,土壌藻類31種が出現した。藍藻2種,珪藻3種,黄緑藻8種,緑藻18種であり,緑藻が半数以上をしめた。出現種のうち黄緑藻Xanthonema sp.2と緑藻Chlorella vulgarisのみ地点1で調査期間継続的に出現した。逆に調査期間中1地点で1回のみ出現した種は,藍藻2種,珪藻2種,黄緑藻1種,緑藻9種の計15種で出現種の約半数が該当した。富栄養な土壌環境の指標となる緑藻Prasiola crispaは地点1で2000年と2005年にのみ出現した。出現種数は地点1が4-15種,地点2は0-6種,地点3は3-9種であった。この6年間の調査では各地点における種組成の明らかな変化は認めることができなかった。
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