研究概要 |
高温高圧下で液体状態を保った亜臨界水中では,水のイオン積が常温の水の時の1000倍程度も上昇し,種々の反応が無触媒的に進行する.この特長を活かした環境への負荷を軽減した食品加工プロセスの構築を目的として,亜臨界水中での食品成分の無触媒合成について検討を行った.まず,薬や化粧品合成の出発物質となる5-ヒドロキシメチル-2-フルフラル(HMF)を糖から亜臨界水中で生産する変換反応を試みた.各種単糖の分解過程はいずれもWeibullの式で整理することができた.HMFへの変換率はフルクトースからが最も高く48%であることを見出した.次に,100〜140℃の亜臨界水中で,無触媒的にペプチドであるアンジオテンシンIIと3種類のジカルボン酸との間にペプチド結合が形成されることをLC-MSおよびMALDI-TOFで確認した.温度が高いほど,縮合物の生成量が増加した.また,ジカルボン酸の水酸基が少ないほど,高い変換率を与えることが明らかになった.最後に,亜臨界水中での異性化反応に着目した.200〜260℃の亜臨界水中で,リノール酸から異性体である共役リノール酸が生成することを,標準物質と比較することで確認した.処理時間が長いほど,温度が高いほど異性体の転換率が大きくなった.しかし,その転換率は高々1%未満であった.また,いずれの条件でも,異性体の転換率がcis-9,trans-11 CLA/trans-10,cis-12 CLA=1.0/0.6と一定であることも明らかとなった.上述のように,亜臨界水中での無触媒的な分解・合成・異性化反応により,食品成分の合成が可能であることを示した.これらの成果を3つの論文として公表し,所期の目的をほぼ達成した.
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