研究概要 |
グローバライゼイションを交易と投資による経済圏の世界的統合とする定義を熱帯林に援用すると,林産物が商品化され,国際市場において流通するに至る過程と換言することができる.そして植民地体制の確立した19世紀終わりから20世紀初めにかけての時期に第1の波があり,1960年代になると第2の波が現場におしよせ,周知のように企業による熱帯雨林の大規模伐採が展開した. 第一の波で供給された林産物は,重量に比して価格の低い熱帯雨林産大径木ではなく,季節林の産するティークと雑多な非木材林産物であった,しかし熱帯諸国の多くでは,植民地期の林野制度が今日に至るまで適用されている.そこで本研究では,英領インドに端を発する熱帯林業の体系に着目し,それが異なる経済立地および統治形態のもとにあったサラワクやガーナをはじめとする他の英領植民地の森林に対し,どのように波及したのかについて文献調査をおこなった. これまでに明らかになった結果として,インドにおいて林野制度の確立した19世紀後半にはすでに植民地政庁による直営生産がなされていたが,ビルマの統合とともに民間企業からのロイヤルティ収入が拡大していった。20世紀以降のインドにおいても,林地の確定はむしろ人口稠密な地域で進展し,ビルマにおいては一部地域に留まったまま今日に至っている。すなわち,同じインド帝国にあっても,ビルマはサラワクをはじめとする東南アジア熱帯雨林的な条件を有していたと考えられる。 こうした横断的な相違に対し,時系列的な変化をみると,今日のインドは植民地期の制度を踏襲しつつ,森林の位置づけを経済資源から環境資源へ,また歳入の確保から地域住民の福祉へと大幅に転換することによって,森林をめぐる政治的関係の変化に対応させている。すなわち,植民地期における林地の確定という前提が,共同森林管理の実現を可能にしたと考えられる。
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